今回は、猫の血栓症「大動脈血栓塞栓症」について説明したいと思います。
この病気は主に肥大型心筋症と呼ばれる心臓病に併発して発症することが多い病気です。
痛みが症状として現れるので、見ている飼い主側からすればとても見ていられない病気ですし、獣医側としてもなかなか治療に反応しないため手をやく病気です。
この病気を予防するためにはどうしたらいいか、もし血栓症のような症状が出た場合飼い主さんはどうしたらいいかをお伝えします。
なぜ後ろ足が立てなくなるのか
なぜ後ろ足が立てなくなるのかというのかというと、足の付け根にある血管に血栓が詰まることによって、左右の後ろ足に血液が行かなくなって機能障害が起こるためです。
文献によると71%は足の付け根の血管に血栓が塞栓します。
veterinary internal medicine p1329

心筋症に続発することが多い
大動脈血栓塞栓症は、猫の肥大型心筋症という心臓病に併発して起こります。
ある文献では、肥大型心筋症の猫の16-18%で大動脈血栓症を発症するということが知られています。 veterinary internal medicine p1329
心筋症を発症すると血液の流れが遅くなり、その結果血栓が作られるそうです。
そのため、心臓病を抱えている猫ちゃんは気をつけておく必要があります。
何歳ぐらいで発症しやすいか
基本的に肥大型心筋症は数ヶ月から16歳と幅広い年齢で発症する可能性があります。
また肥大型心筋症になりやすい猫も知られており、メインクーンやアメリカンショートヘアーが知られています。
それに伴い、大動脈血栓塞栓症も幅広い年齢で発症する可能性があります。
僕の経験した症例では、若くて3歳ほどの猫ちゃんが肥大型心筋症とこの血栓症を併発しており、亡くなってしまったことがあります。
このように例え猫ちゃんの年齢が若くても安心できないのがこの病気の怖い所です。
症状チェックリスト
大動脈血栓塞栓症になった場合、どのような症状が出るかを下に示します。
後ろ足が立たない。
足先の温度が低い
股で脈をとることができるのですが(股圧)これが消失。
爪切りで深く切っても出血してこない。
痛がる様子がある。
呼吸が荒い。
肉球の色がどす黒くなる。
などなどの症状が認められた時には、大動脈血栓塞栓症を疑いましょう。
治療・予後
治療は保存療法と血栓溶解剤による治療を行うことが多いです。
保存療法としては、低分子ヘパリンというものを注射でうち血栓がこれ以上作られないようにします。
血栓溶解剤については、人間の脳梗塞などでも使われている薬ですが早期に使わないと治療効果が出ないほか、逆に血栓が溶けることによって毒物が身体中に流れる再灌流障害が起こるためリスクがあります。(人間の場合発症から3−6時間以内に投与することが推奨されています。)
また、この血栓溶解剤は数万円するほど高価な薬になります。
血栓溶解剤を使用することにより再灌流障害が起こり27%しか退院することができないという報告もあります。
また、血栓症を起こした後の生存率は0-50%と言われています。
Journal of Feline Medicine and Surgery (2010) 12, 122e128 doi:10.1016/j.jfms.2009.08.001
飼い主さんにできること
血栓症は非常に予後の悪い病気であります。そのため、血栓症を発症しないように予防することが飼い主さんがいますぐにできることではないでしょうか?
定期的に心臓のエコー検査を行って心筋症になっていないかを獣医さんに見てもらいましょう。
また、血栓症を発症してしまった場合は早急に病院に行くことをおすすめします。
上記でも述べましたが、血栓溶解剤は早期に投与することで治療の効果が出やすいと考えられているためです。
放置しておくと、ほとんどの場合亡くなってしまうことが多いです。
まとめ
今回は、猫の血栓症という病気について説明しました。
僕、個人的には心筋症の猫が若齢にして血栓症を発症してしまって治療したが、亡くなってしまうということを多々経験しています。
飼い主さんは、血栓症を発症して病院に連れて行くことがほとんどです。そしてだいたい心の準備ができないままお別れしてしまいます。
こうした結果を防ぐためにも定期検診で血液検査だけでなく、心臓のエコー検査を行ってもらうことをおすすめします。