こんにちは!マメシバです!
腹水とは、お腹の中に水が溜まっている状態のことを言います。
僕は、大学病院や地域の動物病院で働かせてもらっているので、よく腹水の子の診察を見ることがあります。
地域の動物病院では飼い主さんは、「最近太った」「なんか歩きにくそうだなと思った。」「お腹が膨れている」と言って連れてくることが多いです。
また調子が悪くてエコーを当ててみると腹水を発見することがあります。
大学病院になると、腹水でお腹がパンパンに膨れている子が連れてこられることが多いです。
犬猫の腹水は何らかの原因疾患が隠れているため、発生します。つまり腹水は病気のサインです。
今回は、腹水の原因と、飼い主さんにもできることを獣医さんの視点からお伝えしたいと思います。
腹水の原因と飼い主さんにもできるチェックリストを載せています。
自宅でできる腹水チェック
『うちの子最近、太ってきたけど肥満なのかなそれとも腹水???』なかなか判断ができない時があると思います。
そこ自宅でもできる腹水のチェック方法をご紹介します。
お腹に水が溜まっている状態というのは、水風船を想像してみるといいかもしれません。

水風船を両手で挟んでタプタプすると水が動いているのがわかりますよね。
獣医師さんもよく腹水の症例に同じようなことをします。
片側からお腹を軽く叩いて揺すってみるともう片側に水が動いていることが伝わります。
これを”波動感”と言います。
この”波動感”があるというのが腹水の特徴であり肥満を鑑別する重要な点です。
腹水の原因って何があるの??
獣医さんが腹水の症状をみた時に考えるのは下記の通りです。
①低タンパク血症
②門脈高血圧
③右心不全
④腹膜の炎症
⑤リンパ管の閉塞
少し難しい話にもなりますが、それぞれ説明すると、↓↓↓
低タンパク血症
血液の中のタンパク質が減少すると水分を血管の中に留めておくことができなくなるため血管の外に水分が漏れ出し、腹水となります。

飼い主さんにできる症状チェックリスト
・下痢している。
・最近体重が減ってきた。
・最近食べていない。
・むくんでいる。
咳している、呼吸が苦しそうな場合は、血栓が詰まっている可能性があります。
●獣医師さんがみるポイント
タンパクが漏れ出てしまう病気を疑います。
・タンパク漏出性腸症
・タンパク漏出性腎症(ネフローゼ症候群)
・食事がちゃんと取れているか
診断
血液検査・・Alb(アルブミン)が1.6以下だと低タンパク血症を疑います。
ネフローゼ症候群の場合は、コレステロールの値が上昇します。
エコー検査・・タンパク漏出性腸症では、粘膜層が高エコーになる。
尿検査・・タンパク尿が出ているかどうか→タンパク漏出性腎症の検査
治療
・タンパク漏出性腸症・・低脂肪食
リンパ管が拡張してタンパクが漏れ出るのを防ぎます。
・タンパク漏出性腎症・・塩分制限食、腎臓の血管の圧を下げる薬
門脈高血圧
小腸から肝臓に栄養を送る血管である門脈の圧が上昇することによって起こります。圧が上昇するのは、血液の流れが悪くうまく流れない場合(鬱滞)が考えられます。
この門脈の鬱滞がどんな時に起こるかというと、肝臓の病気にかかっている時です。肝臓に血液を送るはずの門脈が、肝疾患を抱えているとうまく血液が流れていきません。
そのため門脈高血圧になり、血液中の水分が出て行きます。

飼い主さんにできる症状チェックリスト
・黄疸が出ていないか??(目の白目の部分、お腹の皮膚が黄色くなる)
・失神を起こしたことがあるか
・肝臓疾患を抱えているか??
獣医さんがみるポイント
肝臓の疾患を疑います。(肝炎、肝不全、門脈シャント)
診断
血液検査・・T-Bill(ビリルビン)の上昇
肝臓の数値の上昇(ALP、AST、ALT、NH3、T-BiLLなど)
エコー検査・・門脈と脾静脈合流部の逆流を見ます。
これが一番の診断ですが、できる人が少ない!!(二次診療施設なら可能だと思います。)
地域の動物病院でできる人は、エコーが得意な人かもしれません。
CT検査
門脈シャントの血管を見つけます。(エコーでも可能な場合あり)
治療
肝疾患の原因によります。
ここは獣医師さんの方針に従いましょう。
飼い主さんにできることといえば、肝臓に負担をかけない食事が必要です。
肝不全、肝炎の場合は、肝臓に栄養を与えられるように適切な食事を与えましょう
●注意が必要なのは、てんかん発作がある場合はタンパク質をあげてはダメです。タンパク質がアンモニアに分解されててんかん発作を起こします。
そのため、タンパク質を制限した食事を与えます。
この場合は肝臓サポートがお勧めの食事で、1日分を少量頻回であげて血液中のアンモニア濃度が上昇することを防ぎましょう。
●肝疾患+低タンパク+てんかん発作がある場合
この場合は厄介です。
肝疾患が進行するとてんかん発作が起こります。これはアンモニアが増えた結果起こるのですが治療としてタンパク制限食を与えます。
その結果低タンパク血症になるのですが、この場合、タンパク質が摂取できないのでどうしようも無い状況になります。
この場合、BCAAというアミノ酸を使います。このアミノ酸は、肝臓に負担をかけることなく、タンパク質を摂取することができます。
右心不全
心臓の右の部屋は右心と呼ばれて心臓から肺に血液を送っています。
右心の動きが障害されることにより、体全身の血液の流れが悪くなり(鬱滞)水分が漏れ出てきます。

飼い主さんにできる症状チェックリスト
・呼吸が荒くないか(努力性呼吸)
・運動したがらない
・咳が出る
・犬座姿勢(伏せをすると苦しいため、おすわりの姿勢を保ちます。)
・フィラリア予防を毎月欠かさずやっているかどうか。
・舌の色が真っ青ではないか
獣医さんがみるポイント
フィラリア症か、肺血栓症、心臓病による肺高血圧を疑います。
診断
・心臓のエコー検査にて肺高血圧になっているかどうかを見ます。
治療
獣医師さんは肺血管拡張薬を使います。
飼い主さんにできることは、予防です。
フィラリアの予防は必ず行うようにしましょう。フィラリアの予防は月に1回あげるだけで行えるので簡単です。しかし、一度発症してしまえば治療は困難になります。
また心臓病を患っている場合は、常に呼吸数やせきに注目しましょう
いつもより呼吸が激しいかどうかを見ておきましょう。
腹膜の炎症
腹膜炎は消化管に穴が空いている場合や、胆嚢が破裂した場合、胃潰瘍の場合などに起こることがあります。
また癌の転移(播種)によって起こることもあります。(癌性腹膜炎)
飼い主さんにできるチェックリスト
・痛がる、苦しそう
・腹部を舐める
・食欲なく、嘔吐する
・胆嚢破裂の場合、黄疸が出ることも
獣医さんのみるポイント
腹水の成分を検査してみて炎症細胞が出ているかどうかを見ます。
診断
腹水検査(炎症細胞があるかどうかをみる)
黄疸があるかどうか
エコー検査にて、胆嚢破裂をみる。
飼い主さんにできることは、すぐに病院に連れて行くことです。
腹膜炎の症状が出た時には、命の危機であることが多々あります。
リンパ管の閉塞
リンパ管が腫瘍や血栓によって流れが悪くなると、リンパ管の中の水分が漏れ出てきます。
この場合(乳び)と呼ばれる白い液体が出てくることが多いです。
お腹の中に溜まった場合はあまり心配しなくてもいいですが、胸の中に溜まった場合には呼吸がしづらい状況になっているので、水を抜いてあげることが必要です。
乳び胸の原因は不明なことが多く、勝手に治って行くこともありますが、胸の中に水が溜まると肺葉捻転といって肺がねじれたりして重症化するので動物病院で水を抜いてもらいましょう。
飼い主さんによくある認識
「先生、腹水が溜まっています。抜いてください!!」
と動物病院にくる飼い主さんがいます。
しかし、腹水は抜いても原因疾患が根治しないとまた腹水が溜まってしまうことがほとんどです。
しかも腹水には栄養要素が含まれており、腹水を抜くことによって栄養失調を助長してしまうことがあります。
犬が一時的に楽になり、飼い主さんの心境的にはホッとすると思いますがすぐ再発するので、腹水が溜まったからといってすぐ抜くのは得策とは言えません。
どうしても抜く場合には利尿薬を使って尿として水を排出して行きます。こうすることで栄養を失わずに腹水を抜くことができます。しかし、これも腎臓に負担がかかるため腎疾患がある子には使えません。
飼い主さんにできること
腹水が出た時早急に発見し動物病院に連れて行くことが大切になってきます。
腹水に気づくには、日頃から体重管理が必要です。
体重測定をこまめにして、体重の変化を見ておきましょう。
体重の増加があった場合は、肥満か腹水かを冒頭で述べた”波動感”でみるようにしましょう。
体重の他にも飼い主さんにできることは、日頃から犬猫の様子をしっかりと観察していろんな部位に触ってみることです。
そうすることで病気の早期発見にもつながります。